足捌

2023/09/09

台風13号が速度を落とし温帯低気圧に変身しながら東日本を通過している土曜日、山登りはもとよりクライミングジムにも行く気になれず、自宅でクライミングシューズを履いて足捌きの練習。

……というのは冗談ですが、実際にやってみるとソールが硬いクライミングシューズでベースペダルの操作をするのは難しいものです。ともあれここではこの拙い演奏のことは横に置いて、自分が親しんできたロックミュージックの中でのベースペダルの使い手をライブ映像等により振り返ることにします。なお、Wikipediaの「Moog Taurus」の項にThe Taurus is well known for its use by progressive rock bandsとあるようにプログレッシブロックのミュージシャンが中心になりますが、最後に一つ違う例も挙げてみます。

優れたベースペダルの使い手としてまず名前を上げなければならないのは、Genesisのベーシスト / ギタリストであるMike Rutherfordだろうと思います。その特徴は、単に彼がギターを担当している場面での低音の補強にとどまらず、ベースペダルの音とフレーズ自体がその曲を特徴づける重要な役割を果たしていること。上の動画に見られるように、プログレッシブ期の曲である「Dance on a Volcano」(『A Trick of the Tail』(1976年)収録)から現役バンドとしての最晩年の曲である「Fading Lights」(『We Can't Dance』(1991年)収録)まで、シンプルな単音を踏んでいるだけなのに曲に独特のドライブ感や雰囲気を与える役割をベースペダルに担わせています。

一方、U.K. / AsiaでのJohn Wettonもライブではベースペダルを巧みに駆使したベーシストで、たとえばPat Thrallをギタリストに迎えた1990年頃のライブでの「Sole Surviver」の演奏を見ると、ベースギターとのユニゾンでかなり動きのあるベースペダルを弾いています。ただしAsiaの楽曲の中でベースペダルの存在が必然的と思える曲は思いつかず、一方U.K.ではファーストアルバムの「Presto Vivace and Reprise」のアウトロ、セカンドアルバム『Danger Money』(1979年)のタイトルナンバー、「Caesar's Palace Blues」のイントロなどで有効に活用されているように思います。

YesのChris Squireも特注のボードにペダルではなくフットスイッチを鍵盤同様の並びで配置し、ライブでのベース音の補強に活用していることが彼の教則ビデオでの機材解説でわかりますが、いわゆる90125Yesのステージを収録した『9012Live』(1985年)を見ると「I've Seen All Good People」「Changes」「Make It Easy」「Starship Troopers」でこれがピンポイントで使われているほか、スタジオ盤『Going for the One』(1977年)をよく聴くと「Awaken」のインテンポになってから2コーラス目の裏にかすかにベースペダルが聞こえます。

カナダのバンドSagaもベースペダルをときどき使用していました。映像は1981年の「No Stranger」と2005年の「Conversations」ですが、バンドについての予備知識なしにこれを見ると誰が何を弾いているのかわからず混乱するかもしれません。Sagaはボーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムの5人編成のバンドですが、ボーカリストはかなりの頻度でキーボードを弾きますし、ベーシストも曲によってキーボードを弾き、特にベースのJim Chrichtonがシンセベースではなくピアノなどを担当する場合はボーカルのMichael Sadlerが代わりにベースギターを弾く、という具合に楽器の担当が柔軟に変わります。映像の中では1曲目はピアノを弾いているJim Chrichtonの代わりにベースギターを弾いているMichael Sadlerがセンターからベーシストのポジションに移動した上でベースペダルを踏んでおり、2曲目ではMichael Sadlerが後方でピアノを弾きJim Chrichtonがベースギターと共にベースペダルでG音とB♭音を出しているのが足の位置でわかります。それにしてもこうして25年間の変遷を見ると、メンバーの風貌や体型の変化が如実にわかるのが怖いところです。

フットペダルを低音楽器としてではなく高音楽器として活用したミュージシャンの中で最も名高いのは、同じカナダのRushのベーシストであるGeddy Leeかもしれません。もともとライブでギタリストのAlex Lifesonがソロを弾いているときに自分がリズムギターでバッキングを行う(たとえば「A Passage to Bangkok」)際の低音を補う目的でMoog Taurus Bass Pedalsを導入したそうですが、これをMiniMoogなどに接続してメロディー楽器として活用するようになったのは『A Farewell to Kings』(1977年)の頃からで、上の動画はこのアルバムに収録されている「Xanadu」の演奏の様子(ただしどうやらスタジオ盤の音とライブの映像を組み合わせたもののよう)です。ここではいかにもMoogらしいミョ〜ンとレゾナンスを強調した音が使われていますが、やがて『Permanent Waves』(1980年)や『Moving Pictures』(1981年)ではフットペダルでストリングス系の音色によるゆったりしたフレーズを弾きながらその上でベースとギターがテクニカルに動くという独自の様式に発展していきます。実は、自分がフットペダルを手に入れたのもRushの曲を演奏したいという動機に基づくものでした。

ただし……。

使い方を間違えるとこのように(あえてバンド名は記しませんが)曲を破壊することにもなりかねないので、ペダルシンセの使い方にはセンスが必要とされるようです。気をつけましょう。