夕暮
2023/12/21
ジェームズ・ボンドの決まり文句と言えば、まずは自分の名を名乗る際の「Bond, James Bond.」が思い浮かびますが、もう一つ、さまざまな007映画の中で繰り返されてきた台詞が「Shaken, not stirred.」です。これはウォッカ・マティーニを好むボンドがバーテンダーに注文する際の指定で、本来ステアで作られるマティーニをわざわざシェイクすることによりカクテルの中に空気や氷が入ってまろやかな味になることが期待されているのだろうと思います。
ところが、2006年の映画「カジノ・ロワイヤル」の中でボンドが注文したマティーニのレシピは次のとおりで、それまでの定番であったウォッカ・マティーニではありませんでした。
ジンが3、ウォッカが1、キナ・リレが1/2。シェイクした上でレモン・ピールを加えるようにと(私の耳には)すごい早口で言っています。この後の場面でボンドが本作のヒロインの名をとって「ヴェスパー(Vesper)」と名付けたこのカクテルを、ふと思い立って作ってみました。
ジンはボンドの指定のとおりにゴードン・ロンドン・ドライジン、ウォッカはフェリックス・ライターの助言に従ってライ麦を原料とするエリストフ、現在生産されていないキナ・リレの代わりにはリレ・ブランを用います。
シェイカーを振ったのは久しぶりでしたが、出来栄えは自分としてはやはりイマイチ。少し振り過ぎたためかわずかに水っぽくなってしまった上に、本来はレモンの皮をグラスに入れるところを省略したのでジンの強さだけが残ってしまいました。もともとアルコールだけを混ぜているのでステアでよいところをわざわざシェイクしているのですから、シェイクの回数は控えめにしてもよかったのかもしれませんし、レモンを省略するのであればリレ・ブランをやや多めにしてフルーツっぽさを補うのもありだったかもしれません。
「vesper」とは「夕暮れ」「宵の明星」「夕べの祈り(複数形の場合)」という意味。そうした名前が暗示するように、ジェームズ・ボンドのヴェスパー・リンドに対する愛は悲劇的な結末を迎えますが、現実の世界ではそうならないよう、カクテル作りの腕を磨いた上でヴェスパーを飲んでくれる相手に振る舞いたいものです。