岳誌

2024/02/10

日本山岳会神奈川支部『かながわ山岳誌』(山と溪谷社)を購入しました。これは2016年3月に日本山岳会の33番目の支部として神奈川支部が設立されたことを契機に、その記念事業として県内の可能な限りすべてのピークとそれに付随した主要な峠を踏査し、そこに根づいた多くの文化情報をとりまとめ世の中に公開することを目的としてまとめられたものです。

本書冒頭の説明によれば、当初5年間の調査期間を見込んでいたところ御多分に漏れずCOVID-19の影響を受けてプロジェクトは思わぬ苦労をすることになったそうですが、そうした困難を乗り越えて本書を上梓した関係者の方々の努力には頭が下がります。

全3章のうち「第1章 概要」は本書そのものの説明なので、メインコンテンツは「第2章 神奈川県山岳地の特徴」と「第3章 踏査記録と文化情報」ということになりますが、いずれも充実した内容に目を見張ります。

まず第2章の内訳を記すと次の通りです。

  1. 小仏、丹沢、箱根-神奈川の山の生い立ち
  2. 神奈川山域の気象から見た特徴
  3. 植物から見た丹沢、箱根、小仏山地
  4. 動物から見た神奈川の山岳地の特徴
  5. 相模の山岳信仰と修験道
  6. 山名・峠名から見た特徴

このうち「1.」は地質学的な観点から神奈川県の山々がどのように生まれたかを数千万年のタイムスケールで解説するもので、以前この領域での読書で得た知識をアップデートすることができました。また「5.」はタイトル通り山岳信仰の起こりから現代までを概観するもので、こちらも私の関心事であり続けてきた(たとえば修験道の抖擻ルートを辿る「東丹沢周回」の実践など)内容ですが、大山修験や八菅修験に加えて山北の「お峯入り」を詳しく説明している点が特徴的です。

次に第3章は神奈川県を東丹沢、西丹沢、北丹沢、箱根、鎌倉・三浦、湘南、県北、横浜・川崎の8エリアに分け、合計94コースをおおむね見開き2ページで紹介しています。さすが可能な限りすべてのピークを踏査したというだけあって丹沢愛好家ですら驚くようなマイナー峰が多数取り上げられていますが、踏査記録とは言っても語り口は穏やかで肩肘張らないコースガイドとして読むことができる上にちょっとした文化情報を付け加えているものも多く、ところどころにさしはさまれたコラムや巻末付録「山名・峠名の由来」と共に楽しく読むことができます。各ページに地図を載せていないのは少し残念ですが、そのかわり各エリアの最初にそのエリアの全コースの位置がわかる地図を配しているので、これから行こうと思っている山のアウトラインをつかもうとか、これからどこへ行こうかなと悩んでいるときなどに、市販の地図を横に置いて参照するには好適です。

そしてこれは大事な点ですが文字が適度に大きく、目の加齢(老眼とも言う)が進んだ人にもフレンドリー。そんなわけで、丹沢をはじめ神奈川県の山をフィールドとする登山者には、老若男女を問わず、ぜひ手にとってほしい一冊です。