阻塞

2024/10/05

この週末は富士登山を計画していましたが、先日の負欠スラブ登攀の際にダニにやられたらしく発熱しているので計画はおじゃん。天候が不順なこともあって家でだらだらしながら、結局のところ富士山には登っていいのかいけないのか、という点についてあらためて考えてみました。

この点を検討する上でまず確認したのは、「富士登山オフィシャルサイト」に掲載されているウェブページ「富士登山における安全確保のためのガイドライン[1](以下単に「ガイドライン」)です。以下はその画面の抜粋です。

ここに書かれていることをはしょって整理すると、次のようになります。

  1. 開山期間以外の「登山道の使用」は、道路法46条の規定により禁止しています。
  2. 開山期間以外で登る場合は①万全な準備、②登山計画書、③携帯トイレ持参の三点の遵守を求めます。

これが誤解を生むのは、ガイドラインの枕に記されている上記規程がありますがという表現が道路法第46条の規程に基づく通行禁止を緩和しているように読めるためです。法律に基づき禁止してはいるが、実態として閉山中の富士山に挑んでいるのも事実なので、三点の遵守事項を守ってくれれば黙認する……いや、これは無理があるでしょう。各種規範の最上位にある法的禁止事項を「ガイドライン」という規範力が薄弱な文書で緩めるということは常識的にいって考えられません。

これには少々悩んでしまいましたが、検討していくうちにウェブページに書かれていることは「ガイドライン」をダイジェストしたものであって、このページにリンクが貼られているPDF版「ガイドライン」を見ると若干表現が異なっていることに気がつきました。そこには次のように書かれています。

夏山期間以外の時期は、充分な技術・経験・知識としっかりとした装備・計画を持った者の登山は妨げるものではないが、以下の理由により、このような万全な準備をしない登山者の登山(スキー・スノーボードによる滑走を含む)は禁止する。

この時期は、夏山期間以上に気象条件が厳しく、登山道は全面通行止め(※)となっており、救護所、トイレなども閉鎖、携帯電話が通じにくいなど、安全の確保が困難である。また、登山道以外についても安全を確保することは難しい。

(中略)

登山は、あくまで自己責任において行われるものであるが、自己の生命を守るため、また、遭難、行方不明時の迅速な救助のため、特に夏山期間以外の登山等に際しては、公益社団法人日本山岳協会が推奨する「登山計画書」を必ず作成・提出すること。なお、「登山計画書」を提出したとしても、そのことをもって登山道の通行を許可したことにはならない

そして、この中のの部分に対する注記として、通行止めの根拠が道路法第46条であることが明記されています。

これらを全体として合理的に解釈しようとすると、登山道を使わずに登山を行う場合は道路法に基づく規制の対象外となるが、その場合でも万全な準備と登山計画書の提出等を行うこと、と読むことになりそうです。なるほどこれなら、少なくとも積雪期における登山については(力量さえあれば)支障がなくなります。しかし、秋山の時期に登る場合は主杖流しなどのバリエーションルートかブル道(道路としての指定がされていなければ)を使うしかなくなりますね。

……こういう解釈であってるのかな?

なお、道路法第46条に基づき通行を禁止できるのは「道路管理者」ですが、富士山の登山道は県道なので山梨県や静岡県が道路管理者です。そこで、たとえば山梨県の公報に通行禁止のことが告示されているのだろうかと思ったりもしたのですが、県のウェブサイトに規制区間と規制開始日が明記されてはいるものの、道路法第47条の15を読むと同法第46条に基づいて道路(山梨県の場合は県道701号線)の通行を禁止するには特別な告示は必要なく、現地に標識を設置すれば足りることがわかりました。崖崩れなどのために緊急で道路を閉鎖しなければならない場合もありますから、確かにこれはもっともなことです。そうすると、登山道をがっちり塞いでいるあのデカいバリケードはこの意味での標識でもあり、バリケードを越えるなどというのはやはりもってのほかということになりそうです。

私もこれまでほぼ毎年、海外登山に向けたトレーニングのために富士山に登ってきました。佐藤小屋をベースとして、五合目から山頂までを2日で2往復(可能であればこれを2セット)というのが自分のルーチンです。そしてこれからも、夏に高所に行くなら残雪の富士山に登りますし、ポストモンスーンの高所に行くなら秋に登る必要が生じるでしょう。富士山は日本で高度順化のための登山ができる唯一の山なので、意欲と良識を備えた登山者のための道場としていつまでも門戸を開いていてほしいと願っています。

脚注

  1. ^「富士山における適正利用推進協議会」策定(「富士登山オフィシャルサイト」において2024/10/05閲覧)。