貼付
2024/11/21
40年前の今日=1984年11月21日、Rushの最初で最後の日本武道館公演(Grace Under Pressureツアー)が行われました。そのときの記憶は今でもかなりの部分で鮮明なのですが、YouTube上にこのステージの大部分を収録した映像が残されていることを知ったときはずいぶん驚き、また感激もしたものです。このとき、私はステージに向かって右側の2階席から3人を見下ろしていたのですが、この映像は反対側から撮っていて、とりわけGeddy Lee(B, Key, Vo)がキーボードを弾く様子がよく見えます。
ここでは長い映像の途中の「Between The Wheels」の部分を貼っていますが、この曲でのGeddyはメインリフを左側下段のRoland Jupiter-8、途中の白玉を右側のPPG Wave2.2で弾いており、ギターソロの背後でもベースを弾きながら足元のTaurusでシンセサイザーを鳴らしている様子がよくわかります。Alex Lifeson(G)も白玉のところではTaurusで低音を鳴らしていますね。この曲は、シンセサイザーのリフが中心のイントロ〜Aメロでは2拍4拍のキーボードにハーフタイムのスネアが3拍目で入るなどリズムが凝っている一方、ギターソロは突き抜けたような疾走感と共に歌詞にマッチした終末感もそなえていて、これを聴くとシンセサイザー主体の楽曲の中でもAlexは本当にいい仕事をするなあと思います。ただ、この頃のRushは(シーケンサーは使うにしても)ステージ上で出す音は全部自分たちで演奏するという姿勢を貫いていましたから、演奏する側にしてみると忙しすぎて大変だったことでしょう。
このツアーでのGeddyはベースを長らく彼のトレードマークだったRickenbackerからSteinbergerに持ち替えていますが、それもヘッドレスでボディがコンパクトなSteinbergerがキーボード演奏をしやすくするからだという話をどこかで読んだことがあります。当時彼はベーシストなのに米国の「Keyboard」誌の表紙を飾ったことで話題になりましたが、その写真にもSteinbergerが写っています。このエピソードだけを聞くと「キーボードを弾きやすいようにベースを選ぶというのはベーシストとしてどうなのか?」と言われかねませんが、確かにこの頃Steinbergerを選ぶベーシストは少なくなく(その嚆矢は私が認識している限りではJourneyのRoss Valoryでした)、このベースが専業ベーシストからも支持を集めていたことは間違いありません。
ともあれ、Rushの日本武道館公演から40周年を記念して今日、上記のことをFacebookのロック関係のグループに投稿したところ、これに対するコメントの中で驚くべき情報をいただきました。以下、そのコメントの抜粋です(コメントをいただいた方のお名前を出していいかどうかわからないので匿名にしておきます)。
私の友人は大阪だけでなく九州など地方公演まで追いかけました。幸運にも前日にローディーと仲良くなり、翌日リハーサル風景を見せてもらう事ができたそうです。そこで気が付いた事が!なんと、ゲディーのキーボードの鍵盤にビニールテープがダラ~ンと貼り付けてあったそうです。
この「友人」はそのときはテープが何のために貼ってあったのかわからなかったのですが、後に正体(用途)が判明したのだそうです。
上の映像は同じ1984年のトロント公演から「The Weapon」で、一通りの演奏が終わりコーダに入る部分。Geddyがキーボードを離れベースでのフリーな演奏に移ろうとしているところですが、ここ(6:22)で彼の左手の動きに注目してください。
このように静止画にすると、さらによくわかります。
目的はThe Weaponの最後のベースソロの部分でシンセ音をホールドする為で、ビニールテープで鍵盤を押した状態で固定していたのでした。
これにはびっくり。このトロント公演の映像を収録した『Grace Under Pressure Tour』はVHSでもDVDでも保有し、繰り返し何度も見ていますが、まさかそんなことをしているとは気づいていませんでした(確かにこの前後のGeddyの動作が不自然だなという感じは最初に見たときから思っていたのですが……)。しかし、これだけごてごてとした電子楽器の要塞の中で行うにしてはやり方がなんともアナログというか、ナイーブというか。それに毎回確実にホールドできる保証がなさそうなので、Geddyがこの場面に来るたびにいささか緊張しながら鍵盤のテープを操っていたのではないかと思うと、微笑ましくもあります。
ともあれ、40年前の(自分にとっては)知られざるエピソードだったことがこうして投稿とコメントとのやりとりの中で明らかになったことに、Facebookを含むSNSの価値を見出すことができて、このこと自体が楽しいエピソードとなってくれました。