天覧

2025/04/13

この日は昨年末のトレラン途中敗退(原因は私のシューズ崩壊……)のリベンジの予定でしたが、天気はあいにくの雨。実は先月中旬にも同様にリベンジを予定→雨天中止になっていたので、これはラン友共々なんらかの「禊」が必要なのだろうと思い至り、酒蔵見学からのアルコール消毒を行うことにしました。

と言うわけで向かった先は、飯能駅から徒歩20分の「天覧山」五十嵐酒造さんです。

まずは売店でしばらく待機しながら何を買って帰ろうかと物色すると、酒蔵の中の様子を伝えるよくできたイラストの隣の試飲機に目が釘付け。これには後でお世話になることになります。

予定の時刻になって案内してくださったのは五代目蔵元で、柔らかい語り口で酒造りの工程に沿って懇切丁寧に説明してくださいました。ことに磨いた米に水を吸わせる「浸漬」には神経を使っているということで、米の品種と精米歩合ごとに細かく吸水時間を記録した表にはこだわりが詰まっていましたが、ここをしっかりしていれば後工程での修正が楽になるのだという説明には納得です。

酒を蒸す釜場の釜はアルミ製ですが、表面に白く付着しているのはカルシウム。ここの水は深い井戸から汲み上げていますが、これは秩父の石灰岩層から飯能まで20年かけて地下を流れてきた中硬水だと言われているそうです。そもそもこの五十嵐酒造の始まりは明治時代。農閑期になると越後から青梅の「澤乃井」小沢酒造へ杜氏として働きに来ていた初代が、飯能によい水が出るからと勧められて独立したのが始まりです。そんな説明を受けてからタンクが並ぶ仕込庫の2階に上がり、米の中からぷくぷくと泡が立っているタンクの一つに近づいて膝をつくと、ぷんと漂う甘い香りにうっとり。ここは昭和初期(開戦直前)に建てられたという土壁の蔵の中で、この空気中にもこの蔵独自の菌が漂っているに違いありません。

書道部筆

李白「待酒不至」

玉壺繋青絲 沽酒來何遲
山花向我笑 正好銜杯時
晩酌東窗下 流鶯復在茲
春風與醉客 今日乃相宜

最後は酒を搾る槽場で、もろみを搾るタイミングを見極めてから人手を集めるのに苦労するという話をされていました。そして、ここで説明を受けた当主のイチ押しが「五十嵐直汲み」です。搾りたての原酒を手作業で瓶詰めしていくため、人手が集まらなければ作ることもできないとおっしゃっていましたが、それでもなんとかこのおいしさを広めたいと取り組んでいるのだそう。これで一通りの説明は終わりですが、全行程を通じて酒造りが好きでたまらないという当主の気持ちが伝わる、楽しい酒蔵見学でした。

売店に戻ったら気になっていた試飲機で酒米も製法も異なる6種類のお酒を試飲し、サービスの奈良漬と共にいずれもおいしくいただいたのですが、やはり買い求めたのは「五十嵐直汲み 純米酒」でした。これはしばらく冷蔵庫に大切にとっておいて、ここぞというタイミングで口開けするつもりです。

この酒蔵見学の料金は一人1,000円ですが、見学を終えた後には公称1杯30ml(実際はその倍近く入っていそう)の試飲用のコイン(1枚100円相当)を6枚もらえますし、お土産として一合瓶ときれいなグラスつき。「クリームチーズのわさび漬」は「五十嵐直汲み」と共に買い求めたものですが、グラスの向こう側の酒粕はおまけですから、料金のほとんどが返ってきているようなものです。この恩義に感じ入ったからというだけでなく、本当に「天覧山」がおいしいことを酒蔵見学の後に立ち寄った飯能駅近くの居酒屋でも再確認したので、これから折々に五十嵐酒造さんを訪ねることにしようと思います。ちなみに4月20日には「蔵祭り」というイベントがあるそうで、これまたとても気になるのですが、この日は夜にイベントがあって酔っ払うわけにはいかないので、残念ながら参加できません。来年に期待しようかな。

さて、これで「禊」が成就して次のトレランの機会が天気に恵まれれば言うことなしなのですが、こればかりはそのときになってみないと……。

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