飛翔

2011/06/22

Yesの新譜『Fly from Here』が届いたので、早速聴いてみました。 このアルバムには、いくつかの話題性があります。

  1. まず何よりも、Yesの10年ぶりのスタジオ録音盤であること(前作は2001年の『Magnification』)。
  2. Chris SquireがYouTubeで探し出したという新ボーカリストBenoît Davidの初アルバムであること。
  3. 『Drama』(1980年)のリリース時にYesに合流していたThe Bugglesの2人(Trevor HornとGeoff Downes)が持ち込んだマテリアルである「We Can Fly from Here」の拡張版再録音であること。
  4. そのTrevorが本作をプロデュースしており、キーボードも(近年のYesのライブを支えていたOliver Wakemanではなく)Geoffであること。つまり、Drama期のYesの疑似再現であること。

Jon AndersonのいないYesなんて!なんで30年も前のマテリアルを引っ張り出すんだ!などと前評判は好意的とは言えないものも少なくなかったのですが、いざリリースされたものを聴いてみると、これがかなりイケています。

前半はさまざまな曲調の曲が「Fly from Here」の統一タイトルのもとに連なる構成となっていて、各曲の一貫性や連続性は希薄ですが、どの演奏もクオリティが高く、タイトなリズムセクションのパワーに圧倒される曲もあればSteve Howeお得意のスティールギターの大胆なフレージングを楽しめる曲もあり、またTrevorとGeoffのコンビによる自由自在な空間処理がもたらす曲の広がりに胸が熱くさせられたりもします。そして、この組曲の歌詞と曲はもっぱらこの2人のペンになるもののようで、核心となる歌詞は、これでしょう。

And we can fly from here into the sky that's clearing Look back we'll dry the tears for those once held so nearly

「Fly from Here」は『Drama』には収録されませんでしたが、当時のYesのライブでは演奏されており、『The Word Is Live』でその模様を聴くことができます。しかし、当然のことながら本作に収録されたバージョンの方があらゆる意味で圧倒的に良く、歌詞のもつ哀感を的確に表現できています。何よりも、新ボーカリストBenoîtの優しい声質がぴったりはまっており、違和感がまったくありません。またちょっとコミカルなパートIVには「Machine Messiah」のフレーズも出てきてニヤリとしますが、1970年代のYesの楽曲においてキラーコンテンツとなっていたリード楽器の超絶技巧ソロ(例えば「Close to the Edge」のオルガンソロ)を伴っていないため、クライマックスの盛り上がりに欠けたまますんなり終わってしまっているのが残念で、これは減点ポイントでしょう。なお、パートIとパートVにはOliverのキーボードが入っているようで、彼の解雇とGeoffへのスイッチがどのような経緯によるものだったのか興味深いところではありますが、真相は不明。

この組曲以外では、Chrisが自身のバンドThe Syn用に録音した素材を使用したと思われるポップな「The Man You Always Wanted Me to Be」(メインボーカルはChris)、Benoîtのボーカルワークが光る「Life on a Film Set」、Geoffの短いシンセソロが懐かしい感じの「Hour of Need」、Steveの落ち着いたアコギソロ曲「Solitaire」、タイトル通りのアップテンポなロックチューン「Into the Storm」など多彩な曲が収められており飽きさせません。総合的に見て、お勧めの一枚としておきます。

こうして新しい「血」を入れて再生したYesですが、同梱されていたDVDのメイキング映像を見ると、Benoît以外のメンバーの高齢化は著しく、果たしてあと何年、現役の演奏を続けられるのかな?という感じ。しかし、もしかするとYesは、世代交代しながら歴史を重ねるオーケストラのように、永遠に続くのかも?……とはいうものの、やはり人事担当取締役のChrisがいなければ、Yesとは言えないのかもしれません。