会議
2016/05/10
珍しく駅の売店で買った『日経ビジネス』5月9日号。
まずカバー記事は「強い会社は会議がない 即断即決の極意」で、その内容はPART1から3までに分かれており、次のような内容です。
- 長い会議に意味はなし 1社当たり、年間30万時間の愚
- 強い会社の「凄い意思決定」 これで貴社も即断即決
- とっとと決めれば、生産性は上がる 小学生でも分かる「今、やるべき経営」
PART1の「長い会議に意味はなし」では、あるグローバル企業が週1回の経営委員会のために経営陣と全従業員が費やしている時間を計測したところ合計で年間30万時間に達したという事例を紹介した上で、一般の日本企業ならもっと多くの時間を会議のために失っているだろうけれども、それでも今は先が読めないVUCAの時代に入っているために会議で時間をかけて未来を見通そうとすることに意味がなくなっていると主張しています。ここで言うVUCAとはVolatility(変動)Uncertainty(不確実)Complexity(複雑)Ambiguity(曖昧)
の頭文字から作られた造語だそうですが、こうした状況の中でどうすればよいかと言えば、次の二つに集約されるのだそう。
- アイデアは即実行し見込みがあれば突き進み、なければ朝令暮改で撤退する「即断即決経営」を極める
- 朝令暮改ができないことはなるべく手を出さない
言うは易く行うは難し、であります。
一方PART3「とっとと決めれば、生産性は上がる」ではやらなくても済む会議はやめる
と必要な会議は最短時間で済ます
ということを推奨していて、いずれも大いに賛同するのですが、しかし日本企業では(1)階層が多い、(2)決定権が曖昧、(3)会議のやり方が悪い、(4)決断できる人材を育てる仕組みがない、という四重苦の上に、(5)会議で威張って自分の威厳を保とうとするタイプ、(6)じっくり話さないといいものは生まれないと考えているタイプ、(7)みんなで決めないと不安なタイプ、といった問題社員が会議を長引かせていると分析しています。こうした「会議依存症」を脱却しましょうというのが編集部の主張なのですが、それでは他社事例を参照しようと思ってPART2「強い会社の『凄い意思決定』」を読んでみると、
- 人工知能に任せる
- 日立製作所:経営判断用のAIを数年後に実用化
- かんぽ生命保険:保険金の審査でAIが即断即決
- ソフトバンクグループ:最適な人材配置をAIが判断
- 独自のルールで決める
- オムロン:二つの数値で撤退を即決
- サムライインキュベート:下位20%の企業に“機械的”に投資
- タニコー:最適取引先を一つの質問で見極める
- コラボハウス:社長は2年で原則として交代
といったあたりは、なるほど各社いろいろ考えるものだなと感心したものの……。
- “神”に聞く
- ホンハイ:シャープの買収日を風水で決定
- アオキ:姓名判断で提携企業を即決
- インフォファクトリー:最終的に迷ったら風水で日選び
- ディライト:パワースポットで経営判断
……真面目にヒントを得ようとした私が馬鹿でした。
ところで、この『日経ビジネス』を購入したのはこの記事を読みたかったからではなく、「三菱自社員は知っていた『不正の根源』」の方に関心があったからです。同社は今、燃費不正問題で大きく揺れていますが、池井戸潤の『空飛ぶタイヤ』の題材にもなった2004年のリコール隠し問題への対策として三菱自動車の社内に設置された事業再生委員会が社員に聞き取り調査を行った際、燃費データの採取に際して法定とは異なる方法を採用していることを示す発言が記録されているにもかかわらず、同社が問題を先送りにしたことを断罪する内容でした。
社員の訴えを経営が採り上げなかった、それは無駄に誇り高い三菱ムラの内輪の論理が改革を阻んだからだ、というのがこの記事の論調ですが、私に言わせれば、従業員が公益通報をしようとしていない時点で、経営も社員もなく、全社一丸となっての犯罪です。燃費不正問題の法的責任の検討はこれからなされるでしょうが、購入者一人一人との売買契約上の賠償責任は別として、少なくとも景表法上の優良誤認表示または不正競争防止法上の偽装表示に当たる可能性は高いように思いますし、これらの法律は内部告発者が公益通報者保護法上の保護を受けられる通報対象法律に含まれていますから、もし本件に関わっている社員の中で心ある者が一人でもいれば、当局に告発することができたはず。
よって、コンプライアンスの観点から見た三菱自動車の最も深い問題は、社内論理を乗り越えて正義を実現しようとする人としての倫理を社員の誰一人として持ち合わせなかった点にこそある、というのが私の意見です。