沙我

2024/03/01

カナダのキーボード・オリエンテッドなロックバンドで紆余曲折ありながらも息の長い活動を続けているSagaは昔から好きで、今でもときどきライブ映像をYouTubeで見たりするのですが、自分がCDを手元に持ったのは第2作『Images at Twilight』(1980年)から第5作『Heads or Tales』(1983年)までの4作しかありませんでした。その後月日が流れて近年Apple Musicのストリーミングでその後の作品を拾い聞きしてはみたものの、やはり若々しかった頃のこれら4作の魅力を超える作品は作れていないなというのが正直な感想です。

ところで、彼らのデビュー作であるセルフタイトルアルバム『Saga』(1978年)はどういうわけかずっと聴く機会がなかったのですが、YouTubeで各年代のライブの映像を見ているうちにこのデビューアルバムに収録されていた曲が意外なほどの高確率でセットリストに加えられていることに気づき、これは捨て置くわけにはいかないなと遅ればせながらきちんと向き合ってみたところ、その完成度の高さに驚いてしまいました。

プログレの世界でデビューアルバムがセンセーションを巻き起こした例としてはKing Crimsonのいわゆる『宮殿』がありますが、それと比較しても遜色ないほどに演奏のレベルが高く、しかも楽曲のスタイルが既に確立していて、どこから聞いても私がイメージする通りのSaga以外の何ものでもないという作品に仕上がっています。Wikipediaで調べてみても参加メンバーの「Saga以前」のキャリアがあまり見えてこないのですが、メインコンポーザーであるボーカルのMichael Sadler(1954年生)とベースのJim Crichton(1953年生)がいずれも20代前半でのデビューですから、彼らは先行する音楽(特にプログレ)のメソッドをかなり体系的に吸収して自分たちのものとしたのだろうと想像されます。

そういえばここで思い出すのはまさにSagaがデビューする頃に読んだある音楽雑誌の記事で、それはバークリー音楽院(?)に留学している日本人ミュージシャンからの現地レポートのような短い寄稿だったのですが、当地で仲良くなったカナダからのキーボードプレイヤーが今度「Saga」というバンドを作るのだと期待に胸を膨らませていたことが紹介されていて、なぜか自分の心にそのことが妙に印象深く記憶されたのでした。今から思えばそのキーボードプレイヤーというのはSaga創設時のメンバーであるPeter Rochonで、彼はデビューアルバム1枚でSagaを離れてしまいましたからその後のSagaの成功も彼の夢の実現とはならなかったのですが、しかしこのアルバム『Saga』の完成度の高さにはバークリー仕込みの知見を備えたPeter Rochonも相当程度に貢献しているはずです。

さて、このアルバムにはそれこそ捨て曲なしの佳曲ばかりが収録されているのですが、三拍子系のリズムが好きな自分としては5曲目の「The Perfectionist」が一番のお気に入りになりました。

この映像は1984年のライブで、キーボードを弾いているのはPeter Rochonの次の次にSagaに加わりその後長くバンドの看板キーボードプレイヤーの地位を占めたJim Gilmourですが、演奏内容自体はオリジナルをほぼ忠実になぞっています。この大らかなリズムに乗って朗々と歌われる「The Perfectionist」とはつまりは「完璧主義者」ということですが、その歌詞を読むと今ひとつよくわからないところがありました。

Ellery Sneed had one great need to do everything just right
If things were not planned and all done by hand, he would ready himself for a fight
One afternoon while sitting alone, he came to a great realization
When it's his turn to die, will there be enough time for plenty of planned preparation.

With a few minutes thought his decision was clear
A fate most perfectly neat, not a friend could remain to witness his death
So a terminal wine he would treat.
The plan was to hold a very large feast serving the wine at the end
Joining the fun would be everyone, he'd been calling his friend.

Invitations went out, all guests did arrive, the meal looked a great success,
Deciding the time he brought out the wine, up stood a familiar guest.
Here's a toast to our gracious host, said Ell's friend Billingford Bluffer.
Never in my life will I taste but a bite of a more perfectly planned out supper.

完璧主義のEllery Sneedという人物を主人公とする寓話のようですが、彼が人々を招いて開催した祝宴に供されるterminal wineとは何なのか。明るい楽曲と不穏な歌詞の組合せに不審を感じつつ調べていったところ、よくしたもので歌詞の内容について意見交換を行うためのサイト「SongMeanings」というのが見つかり、そこに「The Perfectionist」の解釈についてのコメントが1件だけついていました。それを読んでみると……。

うーん、かくも恐ろしい内容だったとは。この調子で他の曲の歌詞を解明していったらこちらが病んでしまいそうですが、ざっと眺めたところでは幸いここまでブラックな内容の曲は他になさそうです。

というわけで、リリース以来実に46年たったところで初めて聴いたSagaのデビューアルバムの話を徒然なるままに書き記してみたのですが、それにしてもApple MusicでSagaを探すと下の画像のように「沙我」と表示されるのはなぜなのだろうか?