公園

2024/08/22

私たちは、自然というフィールドを間借りして登山という行為をさせてもらっています。したがって、その自然を守るための決まり事を十分に理解し、遵守していかなければなりません。特に国立公園・国定公園として保護の対象とされている区域については、そこでの規制を定めている自然公園法がどの区域にどのような規制をかけているかを知っておく必要があります。にもかかわらず、この1年ほどの間にいろいろと自然公園法違反の事象を見聞きすることがあったので、いくつか例示して広く注意喚起してみたいと思います。

まず最初に整理しておくと、自然公園法は特別保護地区での次の行為(抜粋)を許可なく行うことを禁じており、これに違反すると懲役または罰金が課されると定めています。

  • 工作物を新築し、改築し、又は増築すること。
  • 植物を伐採、損傷、植栽すること。鉱物を掘採し、又は土石を採取すること。
  • 広告物その他これに類する物を掲出し、若しくは設置し、又は広告その他これに類するものを工作物等に表示すること。
  • 動物を放つこと(家畜の放牧を含む。)、捕獲し、若しくは殺傷し、又は動物の卵を採取し、若しくは損傷すること。
  • 火入れ又はたき火をすること。

これに対して、私が見聞きした問題事象は次のようなものでした。そのそれぞれについて、そこが規制対象地区内であるか、また規制対象行為であるかを考えてみます。

  1. 私がつい先日目撃したのは、甲斐駒ヶ岳の八合目にある岩小屋の前の焚火跡(上の写真)です。ここは南アルプス国立公園の特別保護地区内ですので「火入れ又はたき火」をすることは明示的に禁じられています。このときは、再発防止のために石組みを可能な限りばらして炉の痕跡を消し、さらにFacebook上のアルパインクライマーのグループ内で警鐘を鳴らしました。
  2. YAMAPでは、槍ヶ岳の北鎌尾根上に「北鎌独標」「北鎌尾根」という私設標識を設置したという記録を読みました。しかもその標識は、風雨に強いとされる琉球松で作られ金属製のワイヤーで岩に固定されていました。しかしその場所は中部山岳国立公園の特別保護地区内であり、標識を設置する行為は「広告物その他これに類する物を設置」する行為に該当します。本件については、長野県の関係部署に違法性の有無についての確認をとった上で、YAMAP事務局に通報を行いました。設置者の方は純粋に善意で行っていることだと思うので、その方を非難する意図はないのですが、YAMAP上にそうした記録が残り続けることでこれが「美談」となり、第二・第三の私設標識が設置されないとも限らないからです。そして、そもそもの価値観として私はこうした人工物が勝手に山に残されることに違和感を覚えています。
  3. あるガイド団体のブログに丹沢での1泊2日の沢登りプランの記録が載っていたのですが、その団体は一流のガイド有資格者で構成されているとウェブサイト上で標榜していたにもかかわらず、丹沢大山国定公園の特別保護地区内で焚火を行っていました(焚火をすること自体がそのガイドプランの「売り」でした)。この問題は以前別記事で紹介した通りです。
  4. ついでに書くと、テントの設営は実は「工作物の新設」に該当します。もう少し詳しく記すとテントは「仮工作物」(自然公園法施行令に登場する用語)なのだそうで、その解釈は「工作物」のうち「その構造が、容易に移転し、又は除却することができるもの(中略)であって、かつ、設置期間が3年を超えない」ものだそうです。これに照らすと、北鎌尾根の北鎌平に幕営する行為は本来は法に抵触するということになってしまいますね。一方、黒戸尾根の八合目岩小屋にビバークするのは「工作物」を新設していないのでOKです。
  5. また、丹沢ではときどき飼犬同伴での登山の記事がネット上に載ることがありますが、丹沢の主稜線は丹沢大山国定公園の特別保護地区に指定されており、そこで飼犬をリーシュなしに歩かせることは禁止事項の一つである「動物を放つこと」に該当します。私も犬は好きな方ですが、ダメなものはダメです。

……などとつらつら書いてみましたが、自分も沢登りなどで山の奥深くに入り、テントを張って焚火をする場合がありますので、これから自分が踏み入ろうとしている山域での規制事項については、今後一層留意していきたいと思います。