ラム

2024/12/31

2024年も今日が最後の一日。振り返ってみると良いこともあれば悪いこともありましたが、「良いこと」の筆頭はなんといってもアマ・ダブラム登頂です。そこで、一年の締めくくりはネパール名物ククリラムをさまざまに味わうことにしました。

ヒマラヤ愛好家ならみんな大好きククリラムはネパールを代表するラム酒で、初めてその味に触れたのは2018年のエベレスト・ベースキャンプへのトレッキングのときでした。

この旅の終点であるエベレスト・ベースキャンプに設営されたテント群のうち、隊長を勤める近藤謙司さん(我々は敬意と親しみをこめて「バラサーブ」(旦那)と呼んでいました)の広いテントの中で振る舞われたのが、自分とククリラムとの出会いだったと記憶しています。しかしこのときは、自分で飲んで美味しかったというよりも、EBCから我々の荷物を運んでくれたポーターたちをルクラの宿で慰労した際に彼らが最初に所望したのがククリラムだったことが強く印象に残りました。

私自身がククリラムのおいしさに目覚めたのは、今年のアマ・ダブラム行でのことです。この旅の往路では、トレッキングの起点となったチェプルンでビールを飲んだあとはアマ・ダブラムBCに入るまで禁酒を通し、そのBCでも登頂祈願のプジャでキャップ1杯のククリラムを口にした以外は、登頂を終えてBCに戻ってくるまでアルコール抜きの生活を過ごしていました。その甲斐あって満願成就した後、ダイニングテントでの登頂祝賀ディナーの際にようやく心置きなく口にできたお酒はビールと共に供されたククリラムのお湯割りです。その後のバックキャラバンでは、日に日に濃くなる酸素濃度と比例してビールやククリラムの量が増えていきましたが、ルクラまでの帰路に同行してくれたクライミングシェルパのチリンもククリラムが大好きで、折々に「お酒飲みますか?」とにやにや笑ってククリラム宴会を仕立ててくれたものです。

思い出話はこれくらいにして、まずはストレートで一杯。キャップを開けたとたんに広がるふくよかな香りがなんとも言えません。42.8度というアルコール度数を感じさせない甘く柔らかな飲み口が、このラム酒の美徳です。

次にショートカクテルを作ってみました。ククリラム2:コアントロー1:レモン果汁1を手早くシェイクして出来上がるのは、美しいオレンジ色のXYZ。このレシピはたいへん有益で、ベースのお酒をブランデーにすればサイドカーですし、ウォッカならバラライカ、ジンならホワイト・レディなので、コアントローは一家に1本あってしかるべきです。これら兄弟姉妹のようなバリエーションのうちXYZはサイドカーのレシピを元に作られたという説があり、そのためラムの色にこだわらない(ホワイトラムである必要がない)のでダークラムであるククリラムにはうってつけですが、色だけでなく味の面でもククリラムにコアントローが溶け合った甘さとレモンの酸味とが絶妙に合っていて、文句のつけようがありません。XYZには甘味を増して飲みやすくするためにコアントローの比率を高めるレシピもありますが、ことククリラムを用いる場合はその必要性を感じることはなさそうです。

ちなみに「ククリ」とは、外箱やラベルにも描かれているようにネパールの山岳民族が用いる短刀のことで、説明書きにはヒマラヤの風土に根ざすその特徴が次のように記されています。

BORN IN THE HIMALAYAS, KHUKRI XXX RUM IS AN EXCEPTIONAL DARK BLEND, DISTILLED WITH RICH MOLASSES, HIMALAYAN SPRING WATER, AND NATURAL ARTISANAL FLAVORS. AGED AMONG SNOWY PEAKS IN CASKS BORN FROM THE REGION-EXCLUSIVE SHOREA ROBUSTA TREE, EVERY SIP OF KHUKRI XXX RUM DELIVERS A COMPLEX TASTE WITH RICH NATURAL FLAVOURS, EARTHY UNDERTONES AND A SMOOTH, LONG CARAMEL FINISH.

続いて作ったロングドリンクはキューバ・リブレ。ラムをコーラで割りライムの果汁を加えたものですが、作り方は逆に、まずライム果汁をグラスに入れてからラム、コーラの順に注いでステアします。「キューバ・リブレ」(キューバの自由)というネーミングからはフィデル・カストロやチェ・ゲバラによるキューバ革命(1959年〜)を連想してしまいますが、実際は19世紀末にスペインを相手に戦った第二次キューバ独立戦争での合言葉に基づくもののようです。なにしろ主役はラムというよりコーラなのでたいへん飲みやすく、アルコール度数の調節も容易ですから、食事を終えた後に場を移しての歓談で片手に持つにはうってつけ。個人的にはライム果汁多めがオススメです。ただしククリラムである必然性は感じられませんでした。もっとも、この頃になると酔いが回ってきて味の違いがわからなくなっていたのかも……。

そして最後はシンプルに、ネパールでの定番タトパニ割りです。「タトパニ」とはネパールの言葉で「Hot Water」という意味なので早い話がただのお湯割りなのですが、これを飲むと、時に苦しくはあっても実り多かった10月のネパール旅行のことを思い出して胸が熱くなってきます。バックキャラバンの途中で泊まったモンジョや事実上の旅の終わりとなったルクラで飲んだククリラムのお湯割りの味は、忘れようと思っても忘れられるものではありません。

それでも帰国した直後は「もうネパールは十分だ」と思いましたし、少なくともエクスペディション(高所登山)にはもう行くつもりはないのですが、日がたつにつれて、空気が薄く木々も生えていないのに濃密な雰囲気をたたえているあの街道でのトレッキングを懐かしく思い出している自分がいることに気づきます。

果たして自分がまたネパールに赴く日は来るのか?……それはその時が来てみなければわからないことですが、今はただ過ぎゆく2024年の記憶の中に気高く聳え立つアマ・ダブラムを振り返り、来たる2025年に出会うであろうまだ見ぬ土地や人々に思いを馳せながら、除夜の鐘が鳴り出すのを待とうと思います。ククリラムのお湯割りを飲みながら。

  • Hatena::Bookmark