霊峰

2025/01/18

知人が松濤美術館で開催中の「須田悦弘」からの帰り道に渋谷のカレー店「ムルギー」に立ち寄っておいしかったという記事をFacebookに上げていたのを見て、なぜか自分も「ムルギー」に行きたくなってしまいました。昭和26年から道玄坂百軒店商店街の中にあるこの店は、私の自宅からはピンク色に妖しい雰囲気の裏道を使えば徒歩10分ほどの距離になりますが、前回ここを訪れたのはなんと19年前です。

さて、昨年ネパールでお世話になったシェルパのチリンがオフシーズンの出稼ぎのために来日することになり、成田空港から東京を経て勤務地となる神戸に向かう乗換え(外国人には難易度高し!)をアテンドしてほしいという要請を受けたため、この日は早朝に成田へ赴いて彼をお出迎え。その後、東京駅あたりで食事を共にしてから新幹線に乗せようとしたのですが、時間が早すぎて飲食店がほとんど開いていなかったために、彼にはおいしそうな駅弁を見つくろって持たせた上で「のぞみ」に送り込み、自分は渋谷に帰ってきて「ムルギー」に直行しました。

固く扉を閉したように見える外観とは裏腹に、中に入ってみると満員の盛況で熱気が高く、しかも客層は比較的若めです。ネットニュースなどで紹介されたのかな?私が初めて訪れた約40年前の「ムルギー」は閑散としていて、席につくとよれよれのご老人(創業店主?)が近づきぼそぼそとした口調で「当店は玉子入りムルギーカリーがおすすめです」(訳「他のものは注文するな」)と説明してくれるためにこちらは恐れおののきながら言われたとおりにするという雰囲気でしたし、それが「ムルギー」の本来の姿だとばかり思っていたのですが……。

注文したのは「ムルギーカリー(玉子なし)」と「ガドガドサラダ」。両方の写真を縦につなげるとあたかも霊峰ムルギーの登攀の辛さつらさ / からさを麓の田園風景が癒してくれているかのごとき構図です。もちろん、いずれもおいしくいただきました。

ふと見れば座った席の目の前にはマントルピースがあり、そこにはなぜか世界第3位の高峰であるカンチェンジュンガ(8586m)を中心としたシッキム・ヒマラヤの山々の写真パネルが置かれていました。カンチェンジュンガとは「偉大な雪の5つの宝庫」という意味のチベット語だそうですが、地理的にはネパールとインドとの国境上にあり、インドが有する唯一の8000m峰です。これは、霊峰ムルギーに挑もうとする客の登攀意欲を高めんがための道具立てなのかな?

こちらは昨年10月29日にアマ・ダブラムの山頂で撮った写真です。手前のすっきりした山がマカルー(8463m)で、そのはるか右奥がカンチェンジュンガ。そしてこうして見ると、ムルギーカリーの特徴であるライスの三角形はカンチェンジュンガの山容を模したもののようにも思えます。いや、本音を言えばマカルーの方に似ているような気がするのですが、マカルーはネパールと中国との国境上の山。ムルギーカリーはあくまで「印度料理」なので、ここはどうあってもカンチェンジュンガでなければなりますまい。ともあれ、今後ヒマラヤでのエクスペディションに挑むつもりはない私も、ムルギーカリーであれば何度でも挑戦する気になれそうです。

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